登山者が初めてOMM JAPAN 2023スコア・ミディアムに出場。行程や装備の振り返り、感想のまとめ。
- OMMに出場することになった経緯
- スコア・ミディアムに挑戦、そして準備
- 前日受付、前泊、そして当日朝…
- 11月11日 Day 1
- 1日目、キャンプ地にて
- 11月12日 Day 2
- フィニッシュ、そして帰宅
- 装備の振り返り(全体)
- 装備の振り返り(テント)
- 装備の振り返り(スリーピングシステム)
- 装備の振り返り(防寒着)
- 装備の振り返り(食糧計画)
- 装備の振り返り(ヘッドライト)
- 全体通しての感想
OMMに出場することになった経緯
オリエンテーリング界隈、トレイルランニング界隈、ハイキング界隈の祭典と言っても過言ではないOMM JAPAN。
そんなOMMに縁があって初めて参加した。
バディは付き合いは長いわけではないが、色々なご縁があり知り合ったお人。ULハイクやギアの趣味がバッチリ合うので、初めて一緒に飲んだときに偶然が重なりその場で OMM参加を決めてしまったほどだ。なにせ僕にとってOMMの一番の難関はバディ探しであったのだから。
さて、これも偶然なのだが今回は長野県佐久穂町開催ということで、家からかなり近いし、10周年大会だというし、これはもう出るしかないという条件だった。
スコア・ミディアムに挑戦、そして準備
僕もバディもオリエンテーリングおよびロゲイニングは全くの初心者なので、参加クラスはお手柔らかにスコア・ミディアムを選んだ。実際にスコア・ミディアムはハイカーが多く参加しているイメージがある。
まずは無事に制限時間内で戻ることを目標とし、点数はあまり気にしないことにした。
初めてならストレートよりもスコアをおすすめされた。ストレートはコントロール(チェックポイント)を決められた順番通りに回らないと完走にならないのである程度の走力が必要だが、一方、スコアは好きなコントロールを好きな順番で回れるので失格等は無い。しかし制限時間がシビアなため、自分たちで地図から所要時間を読み取って計画を立てなければならない難しさがある。
本番までにバディと二人でバリエーションハイキング的な山行を2回ほどやり、地形図と実際の地形を照らし合わせる練習はしたが、オリエンテーリング的な練習は一切やっていないので一抹の不安を残しながら本番を迎えることになった。
事前に考えた装備に関しては別記事で【OMM装備考】としてシリーズ化しているので気になる方はご笑覧願いたい。
前日受付、前泊、そして当日朝…
僕らは近距離在住だったが、前日の11月10日は念のため休みを取り、午後からバディの快適な車で現地へ向かった。
僥倖なことに私の先輩が佐久穂町に別荘を持っており、前泊でそこを使わせて貰えることになった。
前泊しなくても余裕で行ける距離ではあるが、前日受付ができたのはよかったし、前夜イベントの空気もビンビンに感じることもできた。ついでに高級な10周年記念Tシャツを勢いで購入。
会場きは熱気満ちてるとは言え、外は気温一桁台なのにサンダル短パンタンクトップの人をちらほら見かけ、このイベントの異常性を改めて思い知る。
別荘に戻り入念にパッキングをする。装備はとりあえず最終候補を色々持ってきてここで前日の天気予報と体感を基に最終パッキングをした。
お酒も楽しく飲んで快適に就寝。
翌朝。天気には恵まれた。近いとは言え会場まで30分くらいかかるので7時半過ぎに出発。途中で鹿を跳ねた車(OMM参加者では、なさそう)に遭遇。当日にこんなトラブルはごめんだと身を引き締める。8時くらいに会場に着いたが既に駐車場は一杯。他県ナンバーばかりでビビる長野県ナンバー。
彷徨って案内係の人に言うとフェイクの案内をされてゴルフ場に出る。そしてまた戻って彷徨って案内の人にまた聞くと会場にめっちゃ近い場所に止めて良いことになったので結果とても楽だった。係の人もよくわかってなくて本当はダメな気がするが、許可を貰ったので良しとした。
11月11日 Day 1
9時。昨夜受付でもらったSIチップを装備し、あれよあれよとスタート地点に来てしまった…。オリエンテーリング、ロゲイニング何もわからん状態でスタートラインで地図を手に取ると、ブザーが鳴り響き、僕らはスタートラインを越えた。
スタートと言ってもまずは地図を見てあーでもないこーでもないとスタート脇で会議を始める我々。まずスタート地点はどこだ?
結局とりあえずはゾロゾロと他の衆と同じように動く。林道をショートカットする者たちを見て「これがOMMなんだなぁ」と思いながらノロノロとハイキング気分で歩いていると、皆にそそくさと抜かされていく。そう、これはOMM、レース(競技)なのだ…!
しかし初心者でビビりな我々が立てた初日の目標は、無難に最短でフィニッシュに辿り着くこと。欲が出て遠回りしても制限時間を過ぎるのは馬鹿らしいとの思いからそういうことにした。
そうやって進めていると極めて無難に林道や遊歩道だけを通りフィニッシュに辿り着いてしまうことに気づいた。バディと二人で、八千穂レイクの遊歩道のあたりの美しい白樺の森をハイキングしながら、早々とテントで酒盛りをするのもいいじゃないか…と言い聞かせ合っていた。しかし二人の心情の中にこのまま初日が終わることへの後悔が無いわけではなかった。「無事これ名馬」も大事かもしれないが、違うだろ…まだFace your challenge をしてないだろ…!
そうして、キャンプ地の手前の分岐で前のチームがキャンプ地方向と異なる方向へ進んだことで、その先にコントロールがあることに気付いた。このまま終わってはダメだ…!という思いからここを目指すことに。
このコントロールは北側の登山道から入った方が圧倒的に楽だが、我々は沢を南から北上してアプローチしてピストンするしかない。ここを獲って溜飲を下げるために、初日初めて道なき道を進むことになった。
大層なことを言っているが、他のチームが既に入っているのを確認したのでここを攻めたのだ。しかしなかなか沢登りがしんどい。高巻きしたり沢に戻ったりをして最後はドロドロの沢を詰めた。
戻るときはだいぶ高巻きしたほうがいいことがわかっていたので楽々と元の道に戻り、清々した気分でキャンプ地である駒出池キャンプ場に辿り着き、1日目をフィニッシュした。
1日目、キャンプ地にて
制限時間より1時間10分以上早い到着だったのでテント場は選び放題。クワイエットエリアの水場にほど近い小高い場所に陣取り、ちびちびと酒を飲み始めた。
飲みの間にキャンプ地を回って他の人の装備チェック。特に目覚ましい軽量化をしている人の装備は面白い。軽量化モンスターとして有名なM西さんの自作極軽量テントを前にして、我がバディは一言、
「これは…昭和の家庭でお母さんが食卓に被せる半透明のアレ…ですよね…」
他のトップ選手のザックもとても小さく、驚嘆するばかり。X(旧Twitter)でフォローしているマイクさんにもお会いできた。
ひと通り回ったらまた飲み会を再開。バディのナイスチョイスにより、お酒は日本酒を500mlペットボトル2本分とウイスキー200ml2本分を用意。なんでも行きつけの酒屋の店主に大会の趣旨を説明した上でセレクトしてもらったそうだが、そんなチョイスの方法があったとは(笑)。確かに大吟醸は糖質がいい感じに体に染みて、酒なのに身体の回復が見込めそうでとても美味しい(笑)。夕飯のビバークレーションも味が濃くて酒に合う。なんだかんだ21時頃寝落ち。
11月12日 Day 2
寒さで目覚めたが、時計を見るのが怖かった。冬山では朝かと思って起きたら23時くらいというのはよくある話。恐る恐る時計を見ると幸いなことに4時だった。4時までは一度も起きることなく熟睡だったが、一度目が覚めてからは寒くて眠れなかったが、まあもう朝だからいいとしよう。
朝ごはんはモンベルのリゾッタとアマノフーズのフリーズドライ野菜のお味噌汁。染みるお味。
モンベルのリゾッタはガパオ味にしたが、半端なビバークレーションみたいな感じでどこか物足りない。バディの選んだ五目味は美味しかったらしいので今度試したい。
この日は7時40分スタート。恐れていたトイレ行列はほとんど無く、少し遠い大量の仮設トイレでスムーズに身体の軽量化を果たす。のんびりとテントを撤収し、スタートへ。
昨晩の酒は良い酒だったので体にアルコールは残っていない。相変わらず人には抜かされるが、登りは調子がいい。出だしは皆と同じ妥当なルート取りで行くが、課題は東西を横切る沢をロードから渡った後、どうやってゴールにアプローチするかであった。
結局ロードは使わずに途中のコントロールを根こそぎ取りながら斜めにぶった斬るように進むことにした。林道を使いつつ、途中尾根を直登したり、尾根を切ったりしつつ、ショートカットが出来たので少しはOMMらしい動きができたと思う。最後に尾根を一本読み間違えたのは悔しかったがそれまでは大体地図を読めていたように思う。
キツかったのはゴール直前、スキー場上にある高得点のコントロールである。距離は短いが20分以内にスキー場の登り降りをしなければならなかった。ここでバディの秘めたる底力が発動し、僕は登りで千切られた。僕も登りはそこそこ自信があったが、やはりポテンシャルの差なのだろう。またトレーニングしようと思った…。
フィニッシュ、そして帰宅
何とか制限時間内でフィニッシュ。長く充実した二日間が終わった。はっきり言って余韻がすごい。山を一週間くらい縦走したときくらい並に思い出の質量がある気がする。そこに居合わせた人間にしかわからない価値があり、それこそが山の醍醐味だ。
会場にはそんな余韻に浸るフィニッシャー達が溢れていた。無料で振る舞われる手打ちそばの配給の列にとりあえず並んだ。今までの人生で一番美味いそばだった。山に行くと何でも一番美味くなってしまう。
Twitterの仲間が多数参戦していたわけだが、顔がわからないのと予め会う約束もしてないので、みんなその場にいるけど誰とも会わない。それも一興と思い会場を後にした。
我々は即帰宅できてしまうので帰ったが、遠方からの人は後泊などして余韻に浸る人もいるのだろう。バディとの慰労会は後日ということにして、解散。バディも言っていたが、終わってみれば夢のような時間だった。僕も山に行くといつもそう思う。終了から一週間以上経ったが、まだ色々と考えてしまう。通常の登山と違いルート取りが自由だし、装備の改善の余地もあるので、いろいろな「もしも」を考えさせられるゲーム性こそがOMMなのだろう。
装備の振り返り(全体)
装備に関して、全体を振り返りたい。
水食糧抜きのベースウェイト5.7kgほど、トータルで9.28kgとなった。普通の登山用品を中心に固めてこれだけに抑えたので自分としては十分軽くできたと思う。これより軽くすると幕営時の苦痛がでてしまうであろう。
装備の振り返り(テント)
テントはエスパースの山岳テントで防水透湿のシングルウォールテントにした。同じテントを使っている人は他に一組しかいなかったが、似たようなICIのゴアライトテントは何張りか見かけた。
結論から言うと氷点下の中で暖を取るにはやはり正解だった。断熱性が高く中に入るだけで暖かい。かつ朝も結露ゼロの透湿性の高さは流石と言えよう。ツェルトにしなくてよかった。
前室がないのでシューズは適当なカバーをかけて外に放置したが不具合は無かった。
装備の振り返り(スリーピングシステム)
限界気温8℃のダウンシュラフとエスケープヴィヴィで問題なかった…はずだった。いや、実際は就寝から6時間は爆睡だったが、下半身に重ね着を忘れたため、下半身が冷えてしまった。
上半身はベースレイヤーに化繊インサレーション、その上に無理矢理予備ベースレイヤー、そして雨具というフル装備だったにも関わらず、下は薄いロングパンツ一枚に靴下一枚。明らかにバランスが悪いが、酔っ払って寝てしまったのがよくなかったと反省。
ちなみにマットはテント全体に銀マットを敷いて、個人マットとして厚さ1mmの銀マット(元祖ULマット)を折り重ねて上半身だけをカバー。銀マットを降り重ねて座布団にすれば土の上に座っていても暖かかったので銀マは偉大。
装備の振り返り(防寒着)
装備は必携品だけでカバーできると考えた。つまり予備ベースレイヤーたちも総動員すれば寒さには耐えられると踏んだのだ。
寒さの予想は最低マイナス4〜5℃くらいだったが、実際もそんな感じだったと思う。
スリーピングシステムもそうだが、このくらいの寒さに耐えるにはもっと寒い環境を体験しておくといいと個人的には思う。例えば雪の上にテントを張ったことがあれば、下からの冷気がどんなものかは想像が着く。マイナス20℃のなかテントを張ったことがあればマイナス5℃くらいはあったかく感じる。ここは冬山の経験が生きたと思う。
装備の振り返り(食糧計画)
食糧は全般的に良かった。特にビバークレーションは美味だった。
行動食は少しミスをした。というのも、あまり食べなかったのだ。でん六のポリッピーとポリッピーチョコ、海鮮丸、ミックスナッツをナルゲンに詰め込んだ夢のセットを作ったが、結果としてだいぶ余ってしまった。
あまり行動中の運動量が多くなかったのでハンガーノックになることもなく、アミノバイタルやメイバランスなどのジェルで事足りてしまったのだ。とは言えこの詰め合わせは好きなので今度は量を減らすなどしたい。
装備の振り返り(ヘッドライト)
ヘッデンはマイルストーンのMS -G2を使用したが、キャンプ地で使用中にバッテリー切れを起こしてしまった。2〜3時間で切れてしまったように思う。この原因は僕が最高出力で使いすぎたからなのだが、すぐに電池交換して復活することができないのがUSB充電式のデメリットだ。
結局予備ライトであるブラックダイヤモンドのフレアーを使用し、助けられた、最高40ルーメンでテント内では全く不自由が無い。しかも寿命は10時間以上だ。最初からこれだけでもよかったかもしれない。
全体通しての感想
なるほどこれがオリエンテーリング、ロゲイニングなのかと思った。OMMは山の総合力を問うというが、競技としての内容を見ると明らかにオリエンテーリング寄りだ。オリエンテーリングの世界にハイキング界隈やトレラン界隈からも遊びに来れるのがOMMなのだなと思った。
また、「北八ヶ岳」と題されているが、地図上に北八ヶ岳のピークらしいピークはあまり無く、純粋な地形の読みに特化していることが伺える。
登山的な要素はやはり一泊分の荷物を持って行動し、実際にテント泊をするところだろう。ここは登山経験が大いに生かされるので、その点ハイカーや登山者はアドバンテージがなくも無い。
ただ、テント場があまりにも整備されているのでここは山というより単なるULキャンプといった趣だ。山の総合力を競うという点では、本来はキャンプ地(ビバーク適地)は自分で見つけるなどすると良いのだろうが、さすがそこまでは安全管理上難しいのだろう。
また、参加者の装備のチョイスがあまりにも「OMM装備」というものに特化しており、一泊限定、天気も限定、テント場が整備されていることが前提といった条件の元で皆用意するできてしまうので、ここも本来の趣旨とは違うのかもしれない。装備を軽くする技術は大事だが、行き過ぎた軽量化は第二次大戦の「零戦」の軽量化が如く、より速く敵戦を打つのみを目的として万が一の保命装備を削る行為にも等しく思える…。
しかし皆がそういうわけではなく、長期縦走並にでかいザックの人や鍋を外付けしている人もいる。そういう人がいるかと思えば有名なアドベンチャーレーサーの田中陽希さんが普通にいたり、ハイカーズデポの土屋さんとすれ違ったりするというお祭り状態。これがOMMの懐の深さなのだろう。
僕がOMMで一番面白いと思うところは、(ある程度)運営の安全管理に守られながら、野山を自由に動ける体験にあると思う。実際に見知らぬ道無き野山を歩くのはあまりにもリスクが大きいが、事前にある程度調査が入ってる山を歩かせてもらうというのが何とも贅沢だ。
そこにあるのはあくまで限定的な冒険だが、その分チャレンジの幅は広がる。装備を限界まで軽くしたり、登山道を外れて歩いてみたり、普段の山歩きではできないことを許されている。その充実感はOMMの醍醐味であり、大人の贅沢な山遊びそのものだと思った。また機会があれば参加してみたいというのは言うまでもない。
おわり
2023年11月21日